僕はこういうローランスの姿を見るのが好きだ。

まるでわたしみたいな、わたしのずっと前を歩くような言葉や表現をする本を読んだ。どうせこういうのが好きなんでしょ?って言われてるみたいだった。私は少しも17歳の主人公みたいではなく、ずっと、彼女の父の恋人のようだと思った

 

 

会社から駅まで、朝持っていった柿を食べ忘れていたことに気付いたので歩きながら手で掴んで食べた。赤い爪の手で鮮やかなオレンジ色を掴んで、食べた。赤い口紅を塗っていた。柿はそれなりに冷たかったけれど、私の手はずっと、凍えるほど冷たくて、口の中は熱く、手はベトベトだった。甘くて冬だった。

 

土曜日の正午ごろ、電車の中はちょうど椅子が全部埋まるくらいの人数で、休日の午後という感じで家族連れやオシャレした女の子、新聞を持ったおじさんなんかがそこにはいた。私のすぐ横で、これからジャニーズのライブに行きそうな、関西弁の女の人2人がお喋りをしていて、子供の喋る声が聞こえるだけの車内はとても静かで、その女性たちの声は目立つとも言えた。

 

1人のおじさんが「お喋りと通話は電車を降りてから」と穏やかだけど偉そうに嫌味っぽく注意をした。関西からライブのために来て、そんなことで注意を受けて東京ってなんて嫌な場所だ、と感じたに違いないと私は思った。すごく静かになった。すると別のおじさんが、「喋ったっていいじゃねえかよ」と抗議に入った。

 

「通話などは降りてからがマナー」

「通話なんかしてないじゃねえか、喋っちゃいけないだなんてマナーねえよ」

「周りが静かだったら静かにするものです」

「なんだようるせえな、そんなマナーねえよ、ぶっ殺すぞ」

「でも…」

「なんだよてえめ、まじでぶっ殺すぞ」

 

というおじさんたちの声が響き渡って、そんな中でも喋る赤ちゃんの声は可愛かった。

 

意味のわからない理論でお喋りに文句をつけたおじさんより、お喋り容認派のおじさんの方がガラが悪くて言葉遣いが悪すぎてぶっ殺すしか言ってなくて最高だった。私も会話賛成派だから嬉しかった。ふたりでいてもケータイしてたりするよりずっといいのにね。降車際に私も何か言おうかと思ったけれどやっぱりこわかったのでやめた。ぶっ殺すぞって治安悪すぎ。

 

電車でおばあさんに口紅の色を褒められた。

 

金曜

 

 

"…自由で声までもが自由に響いて、不意に通俗的な感じさえする顔になって、我を忘れて怒っていて。またシニカルで、短気で、自然で、冷淡になっている彼女を見るのがとても好きだ。"